椎間板ヘルニアを溶かす新薬が発売

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椎間板髄核への直接注入で椎間板内圧を下げる治療薬ヘルニコア(一般名:コンドリアーゼ)が世界で初めて承認され、2018年8月にも発売されます。

保存療法が効かない一部の腰椎椎間板ヘルニア患者にとっては待望の、手術にかわる新たな選択肢が登場します。

腰椎椎間板ヘルニア患者に対しては、最初の数か月間は消炎鎮痛薬の投与や神経ブロック注射による保存療法を行い、十分な改善が得られない場合には手術でヘルニア塊を摘出するのが一般的です。

コンドリアーゼは、従来全身麻酔を用いた手術が必要だった患者に対して、局所麻酔下での注射のみという簡便な手技により低侵襲な治療を可能にする治療薬です。

コンドリアーゼは、椎間板髄核の構成成分であるグリコサミノグリカン(GAG)を分解するコンドロイチナーゼABC(C-ABC)が有効成分。コンドリアーゼを椎間板内に直接注入することで、髄核中のGAGを融解して椎間板内圧を下げ、突出した髄核による神経への圧迫を軽減します。

これにより1回の注射で疼痛症状の改善が期待されます。

椎間板に薬剤を直接注入して髄核を融解させる治療法(科学的髄核融解術)は以前から存在し、欧米ではキモパパインという治療薬が臨床使用されていました。

しかし、蛋白質分解酵素であるキモパパインは、神経などの周辺組織を損傷して重篤な合併症を起こした症例が報告されたことから現在は使用されておらず、日本では治療薬として承認されたことはありません。

一方、GAGを特異的に分解する多糖分解酵素C-ABCは髄核以外の部分を融解してしまう可能性は低く、脊髄に直接投与されても大きな問題は起こりにくいと考えられています。

こうした特長から、C-ABCは脊髄損傷患者への再生医療にも応用されています。

慢性期の損傷脊髄にはかさぶたのような組織(グリア瘢痕)が形成され、軸索の進展を阻害し脊髄の再生を妨げます。

C-ABCには、軸索再生を阻害する因子の1つ(コンドロイチン硫酸プロテオグリカン)を特異的に分解する作用があります。

慶応義塾大学整形外科学教室のグループは、C-ABCなどで軸索再生阻害因子を抑制した上で、iPS細胞による細胞移植とリハビリテーションを組み合わせることにより、脊髄損傷患者の運動機能回復を目指す研究を行っています。

安全で画期的な治療選択肢となり得るコンドリアーゼですが、今後の普及に向けては課題も存在します。

慶応義塾大学整形外科学教室の教授は、適用対象を見極めながら広めていかないと、誤った使用法によるデメリットが顕在化してしまい、せっかくの有効な治療法が頓挫しかねないと注意喚起しています。

コンドリアーゼは、髄核が線維輪を破って突出し、後縦靭帯を圧迫している場合(後縦靭帯下脱出型)に有効な治療法です。

髄核の膨隆が小さい軽症患者に投与してしまうと、不必要に椎間板の高さを減少させる恐れがあります。

逆に、損傷が激しい椎間板に注入すると、治療薬が椎間板外に漏れて周辺組織に悪影響を及ぼしかねません。

誤って血中に流入した場合には抗体の発現やショックのリスクもあります。

こうした有害事象は、今回の承認で適用対象とされた「保存療法で十分な改善が得られない後縦靭帯下脱出型の腰椎椎間板ヘルニア」患者に対して使用される限り発生しにくいと考えられます。

経験豊富な専門医による正確な診断が重要です。コンドリアーゼの使用に際しては、日本脊椎脊髄病学会や日本脊髄外科学会の指導医に相談することが必要と思われます。

安全な治療法として広めていくにはどういったルール作りが必要かを、学会レベルでコントロールしていくことが求められます。

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